2019年9月22日、ふるさとととつながろうツアーの3回目に、福島市飯野町の境野米子さんの主宰する「暮らし研究工房」にお邪魔しました。境野さんは44年前に福島県に移住し、築160年の美しい茅葺きの古民家を修復し、その古民家で土に根ざした暮らしをされています。今回は、その暮らしぶりを伺いに福島駅からバスで堺野さんの工房に向かいました。古民家に到着すると境野さん夫妻が笑顔で迎えてくださりました。
古民家ツアーとランチで楽しむ
到着後すぐに、古民家ツアーをしてくださいました。立派な茅葺屋根は震災後、予定していた葺き替え作業が中断しトタン屋根も考えたそうですが、モニタリング目的で葺き替えできたことや高かった放射線量も除染をして下がったことなどをお聞きしました。次に、母屋の裏にある家の裏にある横井戸から引かれた古来の洗い場に。一番大きい槽から小さい槽に水が落ちてゆく仕組み。そこには魚も住んでいること。その自然な作りに感動しました。循環型の浄化場や家の食卓に乗る野菜畑なども見学。敷地にあるひとつひとつが興味深いものでした。
ツアーの後は、古民家の中で、ランチタイム。境野さんが私たちのために用意してくれた手作りカレー、副菜、デザートに手作りのヨーグルトと焼き菓子をいただきました。カレーはスパイスの風味豊かでさっぱりしたテイスト。副菜は野菜、おから、イモのおかずと味噌汁、漬物付きのバランスが良いメニュー。野菜が美味しく優しい味付けでした。自家製ヨーグルトと手作りのジャムやはちみつも美味。甘酸っぱいりんご入りのアップルパイは子どもたちに大人気でした。
震災を経て
その後は、堺野さんから震災後の生活に関してお話を伺いました。震災後、放射線量が高くなり、自分の作った野菜を遠方の子どもさんやお孫に送ることもできなくなったこと、福島には来ないように言わなければならなかったことが辛かったこと。そのような状況の中で、なかなか進まない放射線防護対策。それを打開したのが県内から勇気を持って避難した人たちが増えていったこと。避難者をこれ以上増やしたくないという危機感から放射線防護に動いた行政。その意味では避難者にとても感謝していると述べられました。
またこんなエピソードも伺いました。震災後、それまでと同じテーマの記事を雑誌等に投稿することを躊躇していた頃、福島の状況を書く機会があり自分の思いを率直に書いたそうです。
―本来の暮らしができなくなった原因でもある原子力
発電所の事故。日本には54基の原発がありその中の数基が事故より壊れ、そこから放射性物資が県内を中心に拡散して土地が汚染してしまった。原発事故からの「ゴミ」を全て福島の問題として福島県に押し付けるのは強引である。福島のゴミや居住地の近くで原発から作られるゴミは、原発から作られた電力の恩恵を受けている者ー赤ちゃんからお年寄りまでー国民一人一人が引き受けるべきだと考えている―
反論があろうとも、子どもや孫に故郷に来るなと言い放つ辛さを考えたら反論など大したないとその姿勢を変えることがなかったと。
そんな境野さんの力強い話を聞きながら、多くの参加者が震災に対する思いを素直に話し始めました。ふるさとへの郷愁、やるせない思い、不条理、切なさ、辛さ、、、。8年たった今でも私たちにはまだまだ根強く残っている思いや解決できていない課題があることを実感しました。それぞれの心にまだ尾を引く震災の傷跡をこのように互いに吐き出し、伝え、そして行動に移すことが大切なことも知りました。
実り多いワークショップの時間
女性の参加者が楽しみにされていたワークショップタイムになり、まずは、境野さんからエゴマとシソを使ったローションの作り方を学びました。まずは、ローションに作り。ローションは本来保湿の目的でつけるもので、匂いやエッセンスはあくまでアクセントであり保湿以上の効果は期待できないと教えていただきました。薬学部出身でこれまでの経験と実践に基づいたお話はとても説得力があり、有益でした。次は実践。理科の実験のように、計量カップやシリンダーを使いながらレシピに従いローションを作りました。ローションの材料は私たちの手に入りやすいものばかり。この作り方に従い好みの香りなどを入れれば簡単にローションができそうです。ひとり2本のローションのお土産ができました。毎日使っても3ヶ月くらいは持ちそう。。
次に、座敷に横になり、15分でできる健康体操を習いました。ゆっくり呼吸をしながら、腕、腰、脚を回し、体と心を整えていく時間。たった15分のうちに私たちはリラックスでき、心を体も気持ちよくなりました。毎日この体操をしている境野さん。とても健康そうです。食餌と体操で病気も克復させてこられました。これを毎日取り入れたら一日がとても心地よくなることを感じました。
最後に
時間になりバスが迎えにきて、境野さん夫妻と別れを告げました。毎回のことですがあっという間の一日でした。今回も各地から避難移住者の方、帰還者の方が集まり、静かで温かい時間を過ごすことができました。境野さんには、美味しい健康ランチでおもてなしいただき、力のこもったお話で私たちを勇気づけていただき、ワークショップを通じて生活に役立つ知恵を教えていただき感謝しております。ありがとうございました。
毎回違うテーマで開催する「ふるさととつながろうツアー」ですが、参加者とゲストが出会い、その場にぴったり合ったテーマになるのが不思議です。出会いを通じて、主催者側で予想もしていなかった~気づき、共感、喜び~が生まれます。そしてそれが、私たち一人一人をインスパイアリングして、今後の生活を生き抜く力を与えてくれることだと感じています。
次回のツアーでも素敵な出会いができることを楽しみにしています。
皆様、福島でまた会いましょう!