二本松東和町 農家民宿で過ごすお正月
2018年正月、福島駅から1時間ほどかけて二本松市東和町に向かいました。前夜に降った雪に覆われた里山の真ん中に農家民宿「遊雲の里」がありました。そこを経営されている菅野さんとは2011年に出会い、2014年の正月には「帰省バスツアー」の交流会にゲストスピーカーとして参加していただきました。その時に出会った避難者の方も今回参加され、4年ぶりの再会も果たされました。
民宿に着くと、早速、全員で餅つきをしました。炊いていたもち米を臼に入れて、杵で餅をつきます。子どもからおじいちゃん、おばあちゃんまで多くが餅つきに挑戦しました。できあがった餅を、汁餅、きな粉餅、納豆餅、えごま餅、あんころ餅にしていただきました。他にも、いか人参や特製大豆で作った青ばた豆腐など、心を込めて用意されたお料理が並び、親睦を深めながら、美味しくいただきました。
菅野さんは35年以上農業に従事し、一昨年まで、福島県有機農業ネットワークの理事長も勤めていました。震災後は、農家の復興や再生を目指し、自ら農業をするかたわら、相談やセミナー、測定など様々な取り組みをしました。堆肥や有機質を入れた土作りをするとセシウムの移行を防ぐことができることを知り、土作りを進めた結果、地域の農作物から、放射線物資が検出されないようになりました。
多くの研究者や訪問者と関わる中で、東和には泊まる場所がないことに気がつき、2016年4月に自宅を改装して、農家民宿をオープンしました。オープン後は、NPOや企業、関心を持つ若者など、様々な人が訪れ、田植えや稲刈りいちごの収穫などの農業体験や、地域の見学ツアーなどに参加してもらい、農家のことや福島の現状を知ってもらえるようなきっかけ作りをしています。
菅野さんの家は家族分業。Uターンしてきた娘さん、奥様、おばあちゃんまでが一緒に働いています。農作業の他、餅や漬物、弁当などの加工食品の製造販売、農家民宿の経営など、それぞれが役割を担っています。
交流会には、避難者と家族の他に、地域の方々も参加されました。東京から震災直後に移住された夫婦は、菅野さんの野菜を鶏に食べさせて、アレルギーの子どもさんも食べられる健康なたまご作りに励んでいます。東和に来てから2人の子どもにも恵まれ「東京にいる時よりも健康になった」と自らの体験をお話しになりました。1個60円のこだわりの玉子ですが、「こだわっている玉子なら食べてみたい」と参加者の声も。また、近くに建設予定の焼却炉について反対運動をされている東和に移住されたママのお話しも伺いました。菅野さんから、これまでの農作物の全量検査が、今後サンプリング検査に変わることや検出されなくても測り続けることの大切さをお聞きしました。
震災後、除染の問題や風評被害に問題に取り組み、農業仲間や町ぐるみで解決して来た菅野さん。ただ、復興まではまだまだ長い道のりであるにもかかわらず、いつも前向きに目の前の問題に取り組んでおられる姿に、「元気づけられ、居住先でも頑張ろう」と言った声を参加した方から多数いただきました。
在住者、避難者、移住者などが集い、これまでの状況や思いを共有するなど、以前なら実現が難しいと思ったことも、震災から7年目を迎える今だからできたのではないかと思います。それぞれの歩みを知ることで、それぞれの選択を理解し、尊重することができ、つながれることができるのはないかと思います。これからも、このような取り組みを継続していきたいと思います。