安斎育郎先生の「放射線防護学コラム」 vol4
安斎 育郞
経歴
東京生まれ。 東京大学工学部原子力工学科卒業。 同大学大学院工学系研究科原子力工学専門課程博士課程修了工学博士。「放射線管理におけるPersonnel Monitoringに伴う不確定さの確率論的評価に関する研究」。立命館大学経済学部教授。「核実験停止を求める国際科学者フォーラム」に招待される。京都しり造形芸術大学非常勤講師として平和学を担当。
現在
立命館大学定年退任、名誉教授。
被曝を減らす4つの方法
浪江の「エゴマ収穫祭」に参加しました
2019年10月25日、台風21号と低気圧の影響で、関東地方や東北地方は記録的な大雨となり、わずか半日で一カ月分の雨が降るという事態になりました。浪江町では翌26日に「エゴマ収穫祭」が予定されており、私たち「福島プロジェクト」も参加し、畑の土の放射能を調べる予定を立てていました。
前日に福島入りしていた私たちは、26日7時45分に市内のホテルを出発し、国道114号線で阿武隈高地をこえて浪江に出るつもりでしたが、あちこちで通行止め。幸い、ボランティア・ドライバーを買って出たてくれた地元のMさんが道を知り尽くしており、114号線➡399号線➡288号線➡399号線➡36号線などと迂回路をたどりながら、無事に浪江にたどり着きました。
エゴマ畑は冠水して大変でしたが、エゴマ収穫祭会場の喫茶店“OCAFE”ではエゴマ農家の石井絹江さんたちが用意した美味しい料理と、シンガーソングライターの菅野潤さんの演奏プログラムが用意され、私たちも楽しみました。私は、今年収穫されたエゴマにも有意の放射能が検出されなかったことを紹介し、求められるままに手品をいくつか演じました。実は私は「国境なき手品師団」の名誉会員でもあります。
放射線から身を守るには?
さて、このシリーズで「放射能を消す薬はないし、原理的にこれから先も開発されることはない」ことを述べましたが、講演会などでそう述べるとがっかり顔になる人が少なくありません。でも、科学は時として冷酷で、「出来ないものは出来ない」というしかありません。
しかし、「被曝を減らす方法」ならあります。4つあって、4つしかありません。これを実践すれば、被曝は確実に減ります。
放射線から身を守るための4つの方法は、次の通りです。
(1)生活圏の放射性物質を取り除く(除染)
(2)放射性物質と人体とのあいだに遮蔽物を置く(遮蔽)
(3)放射性物質に近づかない=汚染から遠ざかる(距離)
(4)放射線レベルが高い場所にいる時間を短くする(時間)
(1)除染
除染というのは放射線物質を取り除いてどこか遠くへ移すことで、「移染」とも言われます。放射線物質が消えうせるわけではなく、放射性物質が自分まで届かないほど遠くへ移動させるということです。除染の効果は顕著で、なにしろ身の近くにあった放射性物質が取り除かれるわけですから、除染する条件がある場合には何を置いても除染が大切です。
ただ、福島の事情に即していれば、除染廃棄物を「中間廃棄物処分場」に持って行ったのはいいとして、言われているように30年後にそれを再びどこかほかの都道府県に移すというようなことは現実的などうかということです。事情を理解してそのような放射性廃棄物を引き取ってくれる地域もあるかもしれませんが、自分の地域で発生したものでない放射性廃棄物を快く引き取ってくれる自治体は多くはないような気がします。本来は、現在の技術でも十分可能なのですから放射性は器物を厳重に封じ込めて、その上はギガ太陽光発電所にするとか、緑豊かな遊園施設にするとか(現代の放射線防護技術で十分可能です)、その近くにはノーベル賞級の研究者をそろえた低レベル放射線影響研究所をつくるとか、福島の人々にはちょっと悔しい気がするかもしれませんが、その方がはるかに現実的であり、移転先のたらいまわしによる「福島の沖縄化」を防ぐ道であろうと思います。
とにかく、生活圏にある放射性物質を出来るだけ取り除くことは、何よりも大切なことです。そして、現にそれを実施した地域の放射線被曝は確実に減少しています。
(2)遮蔽
放射性物質を取り除けない場合には、放射性物質から出た放射線が体に届く前に遮蔽物によって食い止めてしまうことです。これも大変有効な方法です。福祉の保育園の中には、園庭の周りを水入りのペットポトル何千本かで取り囲み、外からくる放射線を遮蔽したところもあります。
66回の福島調査でよく体験したことですが、調べにいった家の周囲には結構たくさんの瓦やレンガや石があるのです。それをホットスポット(放射能のたまり場)に置けば被曝は効果的に減らせます。ちょっとしたことですが、知ってると知らないとでは大違いです。
(3)距離
放射線はその名の通り「放射状に広がる」ので、放射性物資の近くでは「濃密に」被曝しますが、遠くに行けば行くほど「希薄に」なり、被曝線量は少なくなります。光源から遠くに行けば行くほど暗くなるのとまったく同じことです。
だから、放射能汚染があるところには近づかないことが大切ですが。そのためには「どこに放射能汚染があるか」を知らなければなりません。もしも、家の周囲のどこに放射能汚染のたまり場があるかをお知りになりたければ、私たち「福島プロジェクト」に連絡してください。福島調査計画の一環に組み入れ、日程を調整して調べに行きます。もちろん無償で。連絡は私宛てのメールでOKです(jsanzai@yahoo.co.jp)。
(4)時間
被曝する時間が長ければ被曝が多くなり、短ければ短いほど被曝は少なくて済みます。だから、放射線の高い場所には長居しないことが大切です。そのためには、家の中や家の周囲で、あるいは住んでいる地域のどこが放射線のレバルが高いかを知らなければなりません。もしもそれが分からないで不安だという場合には、私たち「福島プロジェクト」に連絡してください。
こんなことも調査の過程で経験しました。ある家で2階の部屋に二段ベッドを置いてお子さん二人を寝かせていましたが、私たちは寝床を一階に移すように勧告しました。2階の(とくに二段ベッドの上の段は)汚染した屋根に近く、被曝が1階に比べて1時間当たり0.1マイクロシーベルトほど高かったのです。1日8時間寝るとして、2階で寝ると1階で寝るよりも365日では約300マイクロシーベルト(0.3ミリシーベルト)余計に浴びることになります。だから、「調べる」ということが大変大事で、どうぞ遠慮なく「福島プロジェクト」に連絡してください。