自然暮らしコラム vol1
築150年になろうとする茅葺の古民家を修復し、暮らし始めて26年。雨降りのうっとうしい日々の湿気も、囲炉裏から上がる紫の温かな乾いた煙で吹っ飛びます。毎朝夫と40分ほど山を散歩し、その後畑や敷地の草取りに汗を流すことが心地よいと思える日が来るとは、自分でも驚きです。
47年前、生まれた長男が血液の病気をもっていることがわかり、国立小児病院で「突然変異によるもの」と言われたことが、すべての始まりでした。当時、東京都の衛生研究所で食品添加物や残留農薬に関わる仕事をしていて、「食品添加物の突然変異性は八万分の一、だから気にしても仕方がない」と、美味しいものを食べ歩いていました。でも、八万分の一の一が自分だったと気づいたわけです。
以来福島県に移り住み、安全な食べ物を求めて会を作り、活動してきました。団地で鶏を飼い、畑を耕し、田んぼで米を作ってきました。自分で作れるものはできる限り自分でと思い、味噌、梅干し、ドブロクやワイン、豆腐、パンも焼きました。ところが長男は大のパン嫌いになりました。長女からは「誕生日には、お母さんのケーキでないお店のケーキが食べたい」と言われました。日本中の誰よりも安全な食生活をしていると鼻高々だったのに、両手の指が膨れ上がり靴下もはけない状態、膠原病になりました。
大阪八尾の甲田光雄医院に入院し、断食や粉食などを指導されて以来、食べ物に関する考えが全く変わりました。今では玄米粥が世の中で一番美味しいと思えています。敷地から採れる、スギナ、ドクダミ、ハハコグサ、カキドオシ、サンショウ、ヨモギなどで野草茶を作り、化粧水を作ります。夫が作る畑では、青汁の材料、パセリ、セロリ、エゴマ、青シソ、フダンソウ、三つ葉などが育っています。私にとっては、キュウリやナスより、安全な青汁の材料が何よりも大切なのです。そんな、失敗ばかりの人生ですが、皆さんと分かち合うことが一つでもあれば嬉しいです。
ブラックベリー越しの古民家
境野 米子 (さかいの こめこ)
生活評論家・薬剤師 1948年 群馬県前橋市に生まれる。
千葉大学 薬学部卒。 著書は最新では「無塩の養生食」創森社(2020年) 他多数