自然暮らしコラム
26年前の阪神大震災が起きたその翌日、私は膠原病を治したい一心で、両手が膨れ上がった不自由な両手にバッグを持ち、大阪八尾市の甲田医院に新幹線で向かいました。
燃え盛る炎、倒壊した建物、グシャグシャになった道路や線路などの映像を見て、大阪も大変な状態になっているのではと思いました。福島駅に行ってみましたが「一切の旅行は見合わせてください」と言われました。「新幹線や在来線の運行状態は、まったくわかりません」と突っぱねられました。
八尾の甲田医院に電話をしたところ、「なんともありません。電車も通常通り動いていますよ。入院お待ちしています」とのこと。狐につままれたような思いのまま新幹線に乗りました。
東京駅は大混乱でした。京都までしか運行していなかったのですが、親兄弟、友人知人の安否を気遣う人たちが、ガスボンベや食料品を山ほど抱えて乗り込み、通路まで座り込んでいっぱいでした。ニュースでしか見たことがなかった終戦直後の列車のようでした。隣や周囲の方がたとも話が弾みました。皆、情報を求めていました。近鉄線が問題なく動いていることも教えてもらいました。
大阪の街は、平穏でした。すぐ近くの神戸の状態と比較して、あまりの違いに驚きました。スーパーの棚もひとつの品不足もなくあふれていました。すぐ近くの街なのに、この違いは何?と不思議でした。私たちは高度に発達した情報網に囲まれ、遠い国のことが、手に取るようにわかり、遠い街の事件が身近で起きているような気がしますが、実はまるで違うことに気づかされました。
10年前の東北大震災、そして、今日のコロナ。何が起きてもおかしくない世に暮らしている危うさを思います。それだけに、美しい野山、草花、木々が愛おしく思われます。テレビではグルメ、グルメですが、限りある命を大切にし、免疫力を高める食べ物は、決してテレビでは紹介されないだろう米や野菜の粗食です。とりわけ、豆、味噌が食卓に載らなくなった今日の貧しさが心配です。
豆はタンパク質が3割でミネラルなどの栄養がぎっしり。しかもアメリカ合衆国政府が発表した、ガン予防に効果がある食品のうち、大豆は最も有効とされる8種類の中にもあげられています。さらに低エネルギーとして最近は肥満防止に人気が高いようです。「本朝食鑑」によれば、豆は「甘温、無毒。気分を穏やかにし、腹中をくつろげ、腸によい」とあります。味噌や醤油は大豆が原料、朝に晩に食べているのも無毒な証拠。また昔の日本人の気質を作ってきたに違いありません。そういえば最近の日本人、気分が穏やかな人が少なくなっていると思いませんか。豆不足かも!もっと大豆を信頼し、大豆料理を食卓にのせねばと思うこの頃です。
今年も、災いから遠ざけてくださいと祈ります。
境野 米子(さかいの こめこ) 先生
生活評論家・薬剤師1948年 群馬県前橋市に生まれる。
千葉大学 薬学部卒。
著書は最新では「無塩の養生食」創森社(2020年) 他多数